学問的事業で学会がリーダーシップ
留学サポートなど若手の育成に注力(前編)
赤司浩一(日本血液学会 理事長、九州大学病院 病院長、九州大学 医学部 病態修復内科(第一内科) 教授)
2018.09.20
「この人に聞く」のシリーズ第4回は、日本血液学会理事長としてまもなく3期目を迎える、九州大学病院病院長の赤司浩一氏にお話をうかがった。赤司氏は10年以上にわたり、米国・スタンフォード大学とハーバード大学で研究生活を送り、帰国後は九州大学の教授に就任、2018年4月からは九州大学病院病院長も務めている。国際的視野から血液学会理事長として2期4年にわたり取り組んできたこと、そして今後はどんな取り組みを行なうのかその展望を語ってもらった。
赤司浩一氏(日本血液学会 理事長、九州大学病院 病院長、九州大学 医学部 病態修復内科(第一内科) 教授)
1985年九州大学医学部卒業。1985年〜1993年まで、九州大学医学部第一内科、九州大学病院輸血部、九州厚生年金病院、原三信会病院で、骨髄移植を主とする血液疾患の診療経験を積む。1993年米国・スタンフォード大学・病理発生学(Weissman IL研)研究員。2000年米国・ハーバード大学ダナ・ファーバー癌研究所腫瘍免疫エイズ学講座の助教授(Assistant professor)に就任、2004年同準教授(Associate professor)。2004年6月九州大学病院遺伝子細胞療法部教授、2008年九州大学大学院病態修復内科(第一内科)教授。2018年4月九州大学病院病院長。2014年10月より日本血液学会理事長。
日本血液学会は、2008年に旧・日本血液学会と日本臨床血液学会が統合されて新たに誕生した、比較的新しい医学会です。旧・日本血液学会と日本臨床血液学会は、それぞれの立場や役割をお互いに尊重し、新しい組織に生まれ変わりました。そして新生日本血液学会は、金倉讓前理事長のもと、5年間で数々の改革がなされ、「学術・診療・教育」の各分野における基本的な活動領域やその仕組みが整いました。
民主的で開かれた組織運営が特徴
理事会は自由な雰囲気で活発に論議
私は1993年に米国に渡るまでは、日本血液学会、日本臨床血液学会のそれぞれに所属していました。そして2004年6月に帰国し、両学会に復帰した形になります。
2014年10月に理事長となった私は、金倉先生が作った学会の基本骨格を引き継ぎ、発展させてきました。まず手を付けたのは、評議員の選出方法です。従来は、論文数と学会への所属年数を軸に推薦していましたが、地域の特殊事情を加味して選ぶことができるよう、新たに地域枠を設けました。さらに女性枠も新設しました。
もちろん、地域枠や女性枠を設けたといっても、評議員になるには自薦・他薦で活動内容を申請することが前提です。論文、血液学や学会への貢献度を加味した上で、理事会が選出することになります。評議員は全国で700人以上います。評議員によって理事が選出され、その理事によって理事会での議論が行なわれる、という仕組みになっています。
当然ながら、選ばれた理事は“ヘテロ”な集団です。強いリーダーの意見に異論が出ないような空気はなく、自由な雰囲気で意見を出し合い、議論していく理事会になっていると自負しています。他の学会を知る理事からは「この自由なところがいい」との評価を頂いています。全国の様々な立場の人の意見を学会運営に反映させたいという私の思いは少しずつ実現できていると考えています。
また、欧米より遅れていた大規模臨床研究を学会主導で行なうこと、一方で基礎研究の必要性と面白さを伝えていくこと、将来の血液学を担う若手を育成していくことも重要と考え、それぞれの取り組みを行なってきました。
学術・統計調査委員会を中心に
学会主導による臨床研究を開始
臨床研究については、学術・統計調査委員会(現委員長:近畿大学・松村到氏)が中心となって、血液疾患症例登録事業を行なってきました。これは、日本血液学会に所属する施設で新たに発生した造血器疾患の患者さんの疾患名、予後、転帰などのデータを担当医がweb上で登録し、わが国の造血器疾患の発生状況や各疾患の予後などを調査する、疫学研究の基礎となる事業です。
この学術・統計調査委員会の下に、MM研究実行委員会(現委員長:名古屋市立大学・飯田真介氏)と、MPN研究実行委員会(現委員長:順天堂大学・小松則夫氏)を置き、それぞれの疾患についての観察研究を進める体制を整えました。
MM研究実行委員会では、わが国の多発性骨髄腫関連疾患(全身性アミロイドーシスとPOEMS症候群を除く)の前向きコホート研究の計画を立案しました。プライマリーエンドポイントは薬物療法を受けた症候性骨髄腫患者の3年生存割合で、登録期間は3年間、目標症例数1100例を予定しています。この研究では、MM患者さんの治療成績や予後因子だけでなく、介入試験によって、これまでエビデンスが得られにくかったクリニカル・クエスチョン、例えば初期治療としてプロテアソーム阻害剤治療を受けた場合と免疫調節薬治療を受けた場合の予後比較などのサブグループ解析も予定しています。
MMについては、近年、プロテアソーム阻害剤や免疫調節薬など多くの新規薬剤が登場していますが、日本の患者さんについての治療成績のデータがありませんでした。学会主導により治療実態や治療成績を把握し、今後の治療戦略に役立てたいと考えています。
MPN研究実行委員会では、骨髄増殖性腫瘍の前向きコホート研究を計画しました。プライマリーエンドポイントは、MPNの生存率とそれに影響を及ぼすリスク因子の調査です。登録期間は5年間、目標症例数1500例を予定しています。この研究ではMPN患者さんの治療成績や予後因子に加え、予後に影響を与える遺伝子変異などについても、将来の探索的研究のためにゲノムDNAを採取し保存することを予定しています。
MPNの治療ではJAK阻害薬などの新規薬剤が臨床応用され始めましたが、希少疾患であることから、わが国の患者さんについてのデータがそろっていません。これも学会主導でデータを集約することにしました。
〈後編では、新たに始動した産学・学会連携部会について、また学会の今後の展望についてお話をうかがいました。〉