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学問的事業で学会がリーダーシップ
留学サポートなど若手の育成に注力(後編)

赤司浩一(日本血液学会 理事長、九州大学病院 病院長、九州大学 医学部 病態修復内科(第一内科) 教授)

赤司浩一氏(日本血液学会 理事長、九州大学病院 病院長、九州大学 医学部 病態修復内科(第一内科) 教授)

日本血液学会理事長の赤司浩一氏

1985年九州大学医学部卒業。1985年〜1993年まで、九州大学医学部第一内科、九州大学病院輸血部、九州厚生年金病院、原三信会病院で、骨髄移植を主とする血液疾患の診療経験を積む。1993年米国・スタンフォード大学・病理発生学(Weissman IL研)研究員。2000年米国・ハーバード大学ダナ・ファーバー癌研究所腫瘍免疫エイズ学講座の助教授(Assistant professor)に就任、2004年同準教授(Associate professor)。2004年6月九州大学病院遺伝子細胞療法部教授、2008年九州大学大学院病態修復内科(第一内科)教授。2018年4月九州大学病院病院長。2014年10月より日本血液学会理事長。

研究助成ではテーマを公募し公平に審査
新たに産学・学会連携部会も始動

 2017年度からは「日本血液学会研究助成事業」を新たに実施しています。これは、血液学会会員が行なう基礎的・臨床的研究を支援するもので、60~80件の研究課題に対し、研究費の助成を行ないます。原資となるのは企業からの協賛で、現在は数社から合わせて年間約1億円の研究資金が集まっています。

 研究テーマを血液学会のweb上で公募し、研究助成委員会(委員長:大阪大学・金倉讓氏)が、審査委員の審査結果をもとに、助成する研究者・グループを決定します。1件当たり20万~200万円を助成します。

 企業の寄付金は権威ある施設中心の研究、患者数の多い疾患の研究に集中しがちです。この事業では、協賛金を学会が預かり、公平性を担保して様々な研究を助成することができます。2018年度も百数十件の応募がありました。幅広いテーマを対象とすることで研究のすそ野が拡がり、わが国の血液疾患全体の診療・研究に貢献できるものと期待しています。なお、薬剤を用いた介入研究は公募テーマの対象外となっており、企業からの社会貢献を学会が仲立ちするというスタンスです。

 血液学会は、疾患として、患者母数が比較的小さい領域を対象としていますが、血液疾患の臨床・基礎に従事する全ての医師が会員であり、小さいが“パワフルな器”として企業に認識されているからこそできる助成事業だと自負しています。

 もう一つ、「産学・学会連携部会」(部会長:近畿大学・松村到氏)を総務委員会の下に新設しました。これは、学会が窓口となって企業と大学の連携を進めていこうという考えのもとに作りました。

 企業が血液疾患に関して知りたい情報はたくさんあります。薬剤の効果はもちろんですが、むしろ学問的に重要な情報も多いのです。しかも、日本医療研究開発機構(AMED)など、公的資金でカバーできない研究が少なくありません。血液疾患の診療・研究の質を上げていくためには、こうした企業のニーズに対し、学会として何ができるのか、どう応えられるのかを示すことも重要であると考えています。これまでも企業から個別に相談を受けることはありましたが、企業から学会へ、またその逆へのインターフェースとして、本部会を設置することで、最終的には患者さんの治療、QOLに貢献したいと思います。

ゲノム医療、国際化、女性活躍……
課題は山積、一つずつ取り組んでいく

 ゲノム医療部会も設置しました。近年は、厚生労働省の大プロジェクトとして、がんゲノム医療中核拠点病院による、がんゲノム医療の提供体制の整備が進んでいます。このプロジェクトは主に固形がんが対象で、がん関連遺伝子パネル検査による医療の効率化などを目的としています。

 一方、血液疾患では造血幹細胞移植という治療手段があることも反映して、がんゲノム医療の推進が遅れていました。そこで、京都大学の小川誠司先生に部会長を務めていただき、「造血器腫瘍ゲノム検査ガイドライン」を今年の5月に作成・公表し、固形がんとは別立てで、血液疾患のゲノム医療を進めていく基盤を作りました。

 国際化という課題もあります。これは若手の育成と密接に関わる問題です。かつては、米国や欧州への若手の留学に際して、留学先からの給料もあてにできましたが、現在はそうしたサポートが減り、多くの場合事前に奨学金を獲得しないと留学できないという事態になっています。学会としては資金面でのサポートだけでなく、留学先の確保など情報面でのサポートも行なっていきたいと考えています。

 国際化のもう一つの課題は、アジア諸国との関係です。日本血液学会はアジアのリーダーとして、米国血液学会(ASH)、欧州血液学会(EHA)との連携を深めてきました。しかし、近年はシンガポールや中国をはじめとするアジア諸国の診療・研究レベルも上がり、それぞれが個別にASHやEHAにアプローチするようになりました。アジアのリーダーシップを取り続けるためには、世界に通用する人材の育成、研究の推進が必須です。この点については、理事会での議論はもちろんですが、学会員の意見を広く集めながら対策を考えていきます。

 さらに、女性医師が活躍できる素地を整えるために総務委員会の下に女性活躍部会を作り、獨協医科大学の三谷絹子先生に部会長をお願いしました。女性が力を発揮できる環境をどう作っていくかは、米国でも長年の課題でした。私がダナ・ファーバー癌研究所にいた当時、第三者の調査会社によって女性がどのように登用されているかの実態調査を定期的にやって女性活用を推し進めていました。

 それから10年以上が経過し、米国の状況はかなり変わったようですが、わが国の血液領域でも少しずつ、しかし確実に女性がフェアに力を発揮できる環境に変えていくことが必要です。

 多くの新規薬剤の登場や移植療法の進歩によって、血液疾患の患者さんの予後が改善し、長期生存の患者さんのQOLも改善されてきました。それでも、短期間で患者さんの生死に関わり、的確な判断と迅速な対処が求められる領域であることに変わりはありません。日々の診療でシビアな局面に遭遇することが多い分、日本血液学会の会員は、明るい雰囲気で意見を述べ、協力し合う関係にあると思います。

 血液疾患の患者さんに少しでも貢献しようという会員の向上心を礎に、会員の皆さんが「血液学会への参加や活動が楽しい!」と思える学会運営に努めていきます。

日本血液学会理事長の赤司浩一氏