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気鋭の群像Young Japanese Hematologist

遺伝子解析、機能解析、臨床研究の3本柱で
悪性腫瘍における遺伝子異常の全体像の解明へ(後編)

片岡圭亮(国立がん研究センター研究所 分子腫瘍学分野)

2018.11.01

初期研修2年目に血液内科の魅力に出合う
東大から京大に移り、研究者の礎を築く

国立がん研究センター研究所の片岡圭亮氏
国立がん研究センター研究所の片岡圭亮氏

 私が血液内科の分野に進み、さらに基礎研究に携わるようになったのには、様々な偶然と出会いがありました。父親が医師で、大学進学を考える高校生のときには、姉も医師の道を進み始め、親戚にも多くの医師がおり、私自身が医師の道を選ぶことに迷いはありませんでした。東京大学医学部に進学し、将来どんな医師になるかを考えたとき、臨床も研究もしたいと思うようになりました。それが実現できるのは内科、その中でも循環器内科と血液内科だと考えました。

 初期研修は虎の門病院で受けました。1年目の最初のローテーションは循環器内科でした。そこで突き当たったのが、学生として医学を学ぶことと、医師として患者さんを診ることの大きなギャップでした。毎日がしんどく「循環器内科はきついなあ」と思いました。

 初期研修2年目の最初のローテーションは血液内科でした。そこは谷口修一部長を中心に、日本でも有数の多件数の造血幹細胞移植を行なっている大変アクティブな科でした。1年間のローテーションを通じて医師という仕事に慣れ、面白みが出てきた時期だったので、血液内科で起こるいろいろな出来事にどう対処するか、ということにやりがいを感じるようになりました。当時、東京大学から派遣されていた瀬尾幸子先生に「血液内科に興味がある」と話したところ、当時、東京大学の血液内科にいた伊豆津宏二先生を紹介されました。伊豆津先生にお会いし、いろいろなご指導をいただくうちに、血液内科の道に進むことを決意しました。虎の門病院でのローテーションの順序、瀬尾先生、伊豆津先生との出会いが血液内科への出発点となったのです。

 2007年から黒川峰夫教授が主宰されている東京大学血液・腫瘍内科に所属して血液臨床に携わった後、2008年に大学院に進学、2009年に基礎研究に取り組むことになりました。そこでは、黒川先生をはじめとして多くの先生から、ピペットマンの使い方から細胞培養などに至るまで研究の基本や考え方をみっちり指導していただきました。卒業後、当時は中堅の医局員が少なかったため、2012年には同科特任助教となりました。まだ基礎研究を始めたばかりで、もっと研究の幅を広げたいと考えていた私は、研究者としてよりよい環境を求めて、2013年11月に京都大学の腫瘍生物学講座に移りました。そして、ここで小川誠司先生にご指導いただいたことで、これまで培ってきた基礎研究力を大きく飛躍させる機会をいただけたと思っています。

がん横断的に遺伝子異常の全体像の解明へ
層別化、創薬など臨床への還元が大きな目標

 京都大学で始めたATLの研究は、前述したように一定の成果を上げたと思っています。それらの成果をさらに広げていくために、海外に留学したいと考えていた矢先の2016年、「国立がん研究センター研究所にPIのポジションの公募があるから、応募してみないか」と小川先生に声を掛けられました。研究生活がまだ10年に満たない自分が就くのは早いのではないかと考えましたが、思い切って応募したところ、採用となりました。

図

 現在、私が分野長を務める分子腫瘍学分野では、遺伝子異常に基づくがんの分子病態の解明と臨床応用を目標に研究を進めています。次世代シーケンスによって、がんの遺伝子異常の全体像を解析すること、分子生物学的手法や動物モデルなどを駆使して遺伝子の機能解析を行なうことにより、創薬標的やバイオマーカーとなり得る新規のがん関連遺伝子を同定するとともに、がん治療の予後解析や治療反応予測などの臨床研究も進めています。遺伝子解析、機能解析、臨床研究に同時進行的に取り組んでいることが、当分野の特徴です()。

 造血器腫瘍では、がんゲノム医療の推進が遅れていました。今年の5月に血液学会が「造血器腫瘍ゲノム検査ガイドライン」を作成し、固形がんとは別立てで、血液疾患のゲノム医療を進めていく基盤ができました。私も日本血液学会ゲノム医療部会委員として作成作業に加わりました。

 血液疾患の遺伝子医療で、もう一つ欠かせないのが、造血器腫瘍に特化した国産の遺伝子解析パネルです。日本人と他の人種とは造血器腫瘍の発症頻度が異なります。従来のように海外の遺伝子解析パネルによる検査ではなく、日本人の発症頻度に基づいたパネルの構築が遺伝子医療の成績を向上させるために必要です。パネルを構築する過程で、人材も技術も育っていきます。

 さらに重要なのは、現在、海外の機関に遺伝子のシーケンスを依頼すると、依頼に対するレポートは当然来ますが、生のシーケンスデータは得られないことです。今後、遺伝子解析研究を進めるためには、遡って生のデータを確認する必要があるため、わが国の生データはわが国で保管しておくことが非常に重要です。そのためには、国産の遺伝子解析パネルを作ることが必須です。現在、京都大学の小川先生や九州大学の赤司浩一先生にご指導いただきながら、製薬会社と共同し、急ピッチでパネルの開発を行なっています。

 私の研究室は、研究全体では研究所長の間野博行先生、遺伝子解析ではがんゲノム情報管理センター(C-CAT)の白石友一先生、そして臨床研究では伊豆津先生など、多くの先輩や研究者のサポートを得ながら研究を進めています。世界のトップレベルで競争し続けるために、これからも常に進歩していきたいと思っています。