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この論文に注目!Focus On

2023年9月の注目論文

坂田(柳元)麻実子(筑波大学 医学医療系 血液内科 教授)

血液専門医である「Hematopaseo」のアドバイザリーボードメンバーが、血液領域の最新論文から注目すべきものをピックアップ。2023年9月分は、坂田(柳元)麻実子氏が担当します。

Epitope editing enables targeted immunotherapy of acute myeloid leukaemia

Nature. 2023 Sep;621(7978):404-414. doi: 10.1038/s41586-023-06496-5. Epub 2023 Aug 30.

Gabriele Casirati, Andrea Cosentino, Adele Mucci, Mohammed Salah Mahmoud, Iratxe Ugarte Zabala, Jing Zeng, Scott B Ficarro, Denise Klatt, Christian Brendel, Alessandro Rambaldi, Jerome Ritz, Jarrod A Marto, Danilo Pellin, Daniel E Bauer, Scott A Armstrong, Pietro Genovese

ここに注目!

免疫療法を開発するにあたり、免疫療法の標的として最適な腫瘍特異的抗原がないということがしばしば課題となる。たとえば、急性骨髄性白血病(AML)を標的とした免疫療法の開発にあたっては、AMLで発現する遺伝子の多くは造血幹/前駆細胞(HSPC)あるいは分化した骨髄系細胞にも発現することから、これを標的とした免疫療法は造血不全を生じてしまう。そこで著者らは、HSPC側について、キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞またはモノクローナル抗体に対するエピトープを改変させることによって、造血不全の副作用を防げることを示した。エピトープマッピングとライブラリースクリーニングを行ない、AML、HSPCの双方に発現するFLT3、CD123、KITについて、これらを標的にしたモノクローナル抗体の結合が阻害されるアミノ酸変化を明らかにし、塩基編集によりこれをCD34+HSPCに導入した。エピトープ部位を塩基編集したCD34+HSPCは、長期の生着能と多分化能を保持している。免疫不全マウスにこれを移植後、さらに患者由来AML細胞を移植し、その後CAR-T細胞を投与したところ、AMLのみ根絶され、エピトープ部位を塩基編集したCD34+HSPCに由来する造血は維持された。腫瘍細胞と正常細胞に共通の抗原について、正常細胞側の遺伝子改変を行なうことで、新たな免疫療法の開発を行なうことができることを示した点で、画期的な研究である。