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この論文に注目!Focus On

2023年1月の注目論文(Vol. 1)

木崎昌弘(埼玉医科大学総合医療センター 血液内科 教授)

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血液専門医である「Hematopaseo」のアドバイザリーボードメンバーが、血液領域の最新論文から注目すべきものをピックアップ。2023年1月分(Vol. 1)は、木崎昌弘氏が担当します。

Preservation of fecal microbiome is associated with reduced severity of Graft-versus-Host Disease

Blood. 2022 Aug 15:blood.2021015352. doi: 10.1182/blood.2021015352. Online ahead of print.

Burgos da Silva M, Ponce DM, Dai A, Devlin SM, Gomes AL, Moore GF, Slingerland J, Shouval R, Armijo GK, DeWolf S, Fei T, Clurman A, Fontana E, Amoretti LA, Wright RJ, Andrlova H, Miltiadous O, Perales MA, Taur Y, Peled JU, van den Brink MRM.

ここに注目!

同種造血幹細胞移植後の腸管GVHD発症に腸内細菌叢の構成変化(dysbiosis)や代謝産物が関与することは広く知られている。特に、下部消化管GVHDの予後は悪く重症化しやすい。2020年には、同種移植後の腸内細菌叢の多様性減少が移植関連死亡の増加につながることが、日米欧の施設から報告されて注目された。
本論文は、米国MSKCC単一施設での266例の同種移植を施行した患者の急性GVHD(aGVHD)発症前後の糞便より、細菌に特異的な遺伝子である16SリボソームRNAコード遺伝子の塩基配列を決定するメタゲノム解析を行ない、腸内細菌叢、腸内細菌由来代謝産物とaGVHDとの関連や予後との関連を詳細に検討したものである。
その結果、腸管GVHD、特に下部消化管に発症したaGVHDでは、dysbiosisとして嫌気性菌クロストリジウムが減少し、酪酸の産生低下、絶対性/通性嫌気性菌の比(S/F)が減少していた。これらは移植前のみならず移植後20日の糞便を用いた検討でも同様であった。移植前の糞便における嫌気性菌の減少、酪酸産生低下、S/F低下は全生存期間(OS)の短縮やGVHD関連死亡の増加につながり、移植後の予後予測マーカーとなり得ることが明らかになった。
なお、“microbiome”とは細菌叢、微生物叢全体を意味し、遺伝子物質を含めた概念のことであり、従来の培養法での解析の時代に用いた“flora”とは用語として明確に区別されている。