特集B細胞性急性リンパ性白血病の分子病態、層別化、治療をめぐる最新の話題(3)急性リンパ性白血病(ALL)は、小児に好発する造血器腫瘍であり、B細胞性ALL(B-ALL)が約8割を占める。小児のALLの生存率は約90%までに向上し、多くは治癒も見込めるようになったが、成人の生存率は約40%にとどまっている。しかしながら、近年、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)などの新規治療薬や新たな免疫細胞療法が登場し、治療成績の向上が期待されている。
本特集では、B-ALLの重要なテーマとして、ALLの遺伝子変異の最新情報、測定可能/微小残存病変(MRD)の臨床上の意義、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)の新たな治療戦略、再発・難治性ALLに対するCAR-T療法、AYA世代ALLの治療とケアを取り上げ、それぞれ、加藤元博先生、宮本敏浩先生、大西康先生、後藤秀樹先生、佐藤篤先生に、ご解説いただいた。(責任編集 張替秀郎)
Ph+ALLの新たな治療アプローチ
抗がん剤を用いず寛解導入・地固め療法へ
大西康(東北大学病院 血液内科)
2021.07.29
フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)の治療成績は、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)のイマチニブの登場と同種造血幹細胞移植により大きく向上した。その後、第2世代TKIのダサチニブとプレドニゾロンの併用のみでも高い完全寛解率が得られることが報告された。さらに、ダサチニブと二重特異性を持つT細胞誘導抗体のブリナツモマブの併用により、化学療法を用いずに寛解導入と地固め療法が行なえる可能性が見えてきた。ここでは最近報告されたダサチニブとブリナツモマブの併用療法を中心に、Ph+ALLの新たな治療戦略について述べる。