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2020年8月の注目論文(Vol. 1)

木崎昌弘(埼玉医科大学総合医療センター 血液内科 教授)

血液専門医である「Hematopaseo」のアドバイザリーボードメンバーが、血液領域の最新論文から注目すべきものをピックアップ。2020年8月分(Vol. 1)は、木崎昌弘氏が担当します。

Aromatase is a novel neosubstrate of cereblon responsible for immunomodulatory drug-induced thrombocytopenia

Blood. 2020 Jun 11;135(24):2146-2158. doi: 10.1182/blood.2019003749.

Tochigi T, Miyamoto T, Hatakeyama K, Sakoda T, Ishihara D, Irifune H, Shima T, Kato K, Maeda T, Ito T, Handa H, Akashi K, Kikushige Y

ここに注目!

本論文は、九州大学赤司教授のグループとサリドマイドの基質としてセレブロン(CRBN)を同定した半田宏先生の共同研究である。免疫調節薬(IMiDs)であるレナリドミド(Len)は多発性骨髄腫やMDS、ATLなど幅広い血液がんの治療に用いられる。Lenによる有害事象として血小板減少はしばしば経験するが、本論文はそのメカニズムをCRBNの新たな基質を明らかにすることで明快に解明したものである。Len投与中の骨髄腫患者から得られた巨核球においては、proplatelet形成が抑制されている事実より本研究は進展したが、著者らはCRBNの新たな基質としてアロマターゼを同定した。アロマターゼは巨核球においてproplatelet形成に必要なエストラジオールの生合成に必要である。LenはアロマターゼをCRBNにリクルートすることで、プロテアソーム依存性にアロマターゼを分解する。その結果、エストラジオールの生合成が阻害され、proplatelet形成ができないために血小板減少を来たす。本論文では、まるで絵に描いたような綺麗なstoryが展開されているが、IMiDsの新たな基質が明らかにされたことや、IMiDsがアロマターゼ阻害作用を有することにより乳がんへの応用の可能性を示した重要な論文である。

SF3B1-mutant MDS as a distinct disease subtype: a proposal from the International Working Group for the Prognosis of MDS

Blood. 2020 Jul 9;136(2):157-170. doi: 10.1182/blood.2020004850.

Malcovati L, Stevenson K, Papaemmanuil E, Neuberg D, Bejar R, Boultwood J, Bowen DT, Campbell PJ, Ebert BL, Fenaux P, Haferlach T, Heuser M, Jansen JH, Komrokji RS, Maciejewski JP, Walter MJ, Fontenay M, Garcia-Manero G, Graubert TA, Karsan A, Meggendorfer M, Pellagatti A, Sallman DA, Savona MR, Sekeres MA, Steensma DP, Tauro S, Thol F, Vyas P, Van de Loosdrecht AA, Haase D, Tüchler H, Greenberg PL, Ogawa S, Hellstrom-Lindberg E, Cazzola M

ここに注目!

MDSの分類はWHO分類改訂第4版においても形態学を主としており、細胞遺伝学的な分類としては唯一5q-を独立した病型としているのみである。しかしながら、ゲノム解析研究の進歩によりMDSには多くの体細胞遺伝子変異が認められ、病態や臨床的意義が論じられている。その中で、スプライシングに関係するSF3B1変異は約半数の症例に認められ、特に環状鉄芽球を有する症例との関連や予後との相関を認める。本論文は、IWG-PMに登録されているSF3B1変異を有するMDS 3,479例を解析した結果、環状鉄芽球の有無に関係なくそれらを独立した病型と認めることを提唱したものである。SF3B1変異を有するMDSは、1)血球減少、2)SF3B1体細胞変異、3)赤芽球系単独あるいは3系統の形態異常、4)芽球は骨髄5%未満、末梢血1%未満、5)5q-、MDS/MPN、MPNの診断基準を満たさない、6)-7、inv(3)、3q26、RUNX1EZH2変異は除外、7)TGF-β阻害薬luspaterseptに反応する、以上の特徴を有する。SF3B1変異はCHIPなどにも認められるので、それのみではMDSの診断には十分でないが、この病型は予後が良く、治療反応性を期待されるものである。今後も、MDSでは多くのゲノム解析研究の臨床的な意義が明らかにされることで、新たな病型提唱がなされると思われる。

Biological and Clinical Significance of Dysplastic Hematopoiesis in Patients With Newly Diagnosed Multiple Myeloma

Blood. 135(26):2375-2387

Maia C, Puig N, Cedena MT, Goicoechea I, Valdes-Mas R, Vazquez I, Chillon MC, Aguirre P, Sarvide S, Gracia-Aznárez FJ, Alkorta G, Calasanz MJ, Garcia-Sanz R, Gonzalez M, Gutierrez NC, Martinez-Lopez J, Perez JJ, Merino J, Moreno C, Burgos L, Alignani D, Botta C, Prosper F, Matarraz S, Orfao A, Oriol A, Teruel AI, de Paz R, de Arriba F, Hernandez MT, Palomera L, Martinez R, Rosiñol L, Mateos MV, Lahuerta JJ, Blade J, San Miguel JF, Paiva B

ここに注目!

以前より多発性骨髄腫にMDSやAML発症頻度が高いことが知られており、また最近ではIMiDs使用例における2次がんの問題が論じられてきた。さらに、Barlogieらはtotal therapy 2のような大量化学療法を受けた骨髄腫患者に、MDSに関連する染色体異常が出現することを報告している。これらの事実より、スペインのグループは、多発性骨髄腫診断時及び自家移植後の血球形態異常の意義について考察した。その結果、約10%の多発性骨髄腫症例の診断時にMDSにみられるような血球形態異常を認め、これらの症例は有意に予後不良であった。さらに、これらの症例は、骨髄微小環境に影響を与え、治療による有害事象を誘発する。また興味深いことに、MDSと同様の形態異常を有する骨髄腫幹細胞には、TET2、NRAS変異を認め、クローン性造血の存在が示唆された。著者らは検討症例数が少ないので、多発性骨髄腫における血球形態異常とクローン性造血の関係を断定はしていないが、骨髄腫症例は高齢者が多いので、特に当初から血球減少が目立つ症例ではベースにCHIPが存在する可能性もある。そう考えると、骨髄腫症例からMDSやAMLの発症が多いことや、一時盛んに言われたIMiDsによる2次がんもそれほど多くないことも頷ける。地味な論文だが、案外と生物学的な意義が大きいかもしれない研究と思われる。