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気鋭の群像Young Japanese Hematologist

移植ソースの拡大、GVHD予防法の進歩に応じて
HLA適合度と移植成績の関連を多面的に解析(後編)

諫田淳也(京都大学大学院 医学研究科 血液・腫瘍内科学 助教)

臨床研究と、臨床現場の“見学”を目的に米国留学
クリニカルクエスチョンから複数の論文を書く

京都大学大学院の諫田淳也氏
京都大学大学院の諫田淳也氏

 大学院を修了したら海外留学したい、行くのであれば、臨床現場の“見学”をしつつ、臨床データを解析できるようなポジションに就きたいと考えていました。しかし、京大の血液・腫瘍内科では、基礎研究ではない留学をするという前例がなく、自分で道を切り開くしかありませんでした。師匠の一戸先生とも相談しながら、大学院3年生のときに米国血液学会(ASH)でデューク大学のRizzieri先生に、思い切って声をかけました。すると意外なことに「ぜひ、どうぞ。ただし、おカネはないから自分で用意してきなさい」との返事がありました。

 当時私は、ハプロ移植に興味を持っており、デューク大学では、ハプロ移植にアレムツズマブを用いることにより、GVHDをほとんど抑えることができるという報告をしていたので、留学先に選びました。日本では自治医科大学の神田善伸先生が同じ研究をしていたことから、まず自治医大に移り、そこからデューク大学メディカルセンターに留学し、細胞治療部門の移植チームに入ることができました。2010年4月のことです。

 米国では治療はできませんでしたが、問診をしたり回診に参加したりし、米国の臨床現場の実態を肌で感じることができました。日本と米国では医療保険の制度が異なっており、それが診療にも影響を及ぼしていることを知りました。例えば最初の移植で生着不全となると、保険によっては2回目の移植が認められない場合がありました。また、ミニ移植は入院せず外来で行なうのが普通です。患者さんは治療が終わると、病院近くの契約アパートに帰っていきます。日本では考えられませんが、これが米国の移植医療なのです。こうした米国の実態を知ったことは、留学した大きな意義の一つだと思います。

 1年半の留学中には、クリニカルクエスチョンをきっかけにした論文を数本執筆しました。例えば臍帯血移植後にしばしば発熱する生着前症候群について、その原因を調べたところ、ある特定の前処置やGVHD予防法を行なった例で多く発症することを突き止めました。これはその後、GVHDの予防と免疫との関連を調べるきっかけにもなりました。

左:デューク大学留学中。Adult Bone Marrow Transplant Clinicの外来にて。 右:左がハプロ移植の師匠である Rizzieri先生、右が複数臍帯血移植の師匠である Horwitz先生。手前は当時0歳の息子。
左:デューク大学留学中。Adult Bone Marrow Transplant Clinicの外来にて。右:左がハプロ移植の師匠である Rizzieri先生、右が複数臍帯血移植の師匠である Horwitz先生。手前は当時0歳の息子。

日本のデータでHLA不適合移植の後方視的研究
それを踏まえた前向き研究のオーガナイザーに

 2011年9月に帰国した後は自治医大附属さいたま医療センターの血液科の研究員(のち講師)として、神田先生の指導のもと、HLA不適合と移植成績の関連を調べる研究に本格的に取り組みました。まず、日本のデータを用いて、HLA1抗原不適合血縁者間移植の移植成績を後方視的に解析しました。その結果、HLA1抗原不適合での重度のGVHD頻度が、骨髄バンクをソースとした移植(非血縁者間骨髄移植)より高く、全生存率は有意に低いことが明らかになりました。これは、その10年前に神田先生が報告した「バンクと同程度の移植成績」とは異なるものでした。

 その理由を調べていくと、HLA1抗原不適合の移植成績は10年間変わっていない一方、バンク移植の成績が向上していることが分かりました。これは、バンク移植では抗原だけでなくアリルレベルでHLAを適合させるようになっていたからです。さらに解析を進め、HLA1抗原不適合移植と、HLA-A、-B、-C、-DRB1座アリル適合骨髄移植を比較したところ、重症GVHD発症頻度は前者で高く、その結果、全生存率が有意に低くなっていることが明らかとなりました。この結果は、私にとってその後の研究を進める上で大きな柱となりました。

 次に、HLA-A、-B、-DR座1抗原不適合血縁者間移植において、各座不適合が移植成績に与える影響を検討したところ、不適合座がHLA-B座の群で有意に全生存率が低下していた一方、HLA-A、-DR座不適合群は、HLA-A、-B、-C、-DRB1座アリル適合非血縁者間骨髄移植群と成績はほぼ同等であることが分かりました。1抗原不適合血縁者間移植の成績を低下させていたのは、主にHLA-B座不適合であることが明らかになりました。現在も、HLA-A、-B、-DR座1抗原不適合移植では、重症GVHD発症頻度が高く、全生存率もHLA-A、-B、-C、-DRB1座アリル適合移植より有意に劣ったままです。1抗原不適合血縁者間移植の成績を改善させる新たな取り組みが求められています。

 また、GVHDの予防についての研究にも取り組んでいます。造血細胞移植学会のワーキンググループでは、HLA1抗原不適合非血縁者間移植に対して抗胸腺細胞免疫グロブリン(ATG)を使用することで、GVHD発症頻度が低下し全生存率が改善することを示しました。これはおそらく、HLA-B座不適合の悪影響をキャンセルしたためと考えられます。

 この結果を受け、日本造血細胞移植学会では2014年から「GVHD予防法にATGを用いたgraft-versus-host方向HLA1抗原不適合血縁者からの造血幹細胞移植療法の多施設共同第Ⅱ相試験」を行なっており、神田先生が研究代表者、私が研究事務局を務めています。ATGを使用したGVH方向HLA1抗原不適合血縁者間移植の有効性と安全性を検討するのが目的で、2018年7月に登録が終了し、39例が登録され、これからその解析を始めるところです。

 さらに2017年からは「HLA1座不適合非血縁者間骨髄移植における従来型GVHD予防法とATG併用GVHD予防法の無作為割付比較試験」の研究事務局も務めています。これは、HLA1座不適合非血縁者間骨髄移植について、従来型GVHD予防法とATG併用GVHD予防法の無作為割付比較試験を行ない、わが国ではまだ意義が確立されていないATGを併用したGVHD予防法の意義の確立を目指すものです。

 HLA適合度と移植成績をテーマに研究を続けてきた私にとって、こうした前向き研究のオーガナイザーを務められるのは、大変ありがたいことだと思っています。これらの結果が、患者さんの予後とQOLの向上に結び付けられるよう、努力を続けていきます。

造血幹細胞移植の人種間での予後を比較
米国や欧州で国際共同研究を実施

 冒頭でお話ししたEBMTとの国際共同研究の前に、私は国際血液骨髄移植学会議(CIBMTR)のワーキンググループとして、移植成績の人種間の差を調べる国際共同研究を行ないました。末梢血幹細胞移植と骨髄移植の成績は、海外では同等ですが、日本では末梢血移植の成績は骨髄移植より劣るとの成績が発表されています。その理由を知るために、人種間の比較をしたいというテーマをCIBMTRに応募し、米国チームからの応募が多い中、投票によってこの研究が選ばれました。研究結果から、急性、慢性のGVHDの発症は末梢血幹細胞移植、骨髄移植とも、日本人の方が白色人種(Caucasian)より少ないこと、全生存率も日本人の方が高いことが示されました。

 EBMTとの共同研究でも、全生存率は日本人の方が高い印象ですが、患者や移植の背景が違うことから、詳細な解析は行なわれていません。今後は、さらに多くの人種間、民族間の移植成績の比較、解析を行ないたいと考えています。

 現在私は、血液・腫瘍内科学教室の中で、髙折晃史教授の全面的なサポートのもと、臨床の指導と臨床研究の推進を担当しています。私の研究は、すべてクリニカルクエスチョンから始まり、それを患者さんに還元することを目的としています。現在も週1回は外来診療を行ない、病棟には毎日顔を出し、出張がない限り、週末も病棟に出向くことをモットーとしています。多忙でも、できるだけ患者さんのそばにいることが大切と思うからです。

 これからも患者さんの病気が少しでも治るように、診療そして臨床研究に力を入れて頑張っていきたいと思います。

2018年EurocordのGluckman先生を京都にお招きしたときの会食。一番右が髙折教授。左から2人目が諫田氏。
2018年EurocordのGluckman先生を京都にお招きしたときの会食。一番右が髙折教授。左から2人目が諫田氏。