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気鋭の群像Young Japanese Hematologist

「血液の研究をしたい」一心で米国留学を実現
CMLからMDSまで幅広く分子病態解明に挑む(後編)

横田明日美(シンシナティ小児病院医療センター 実験血液学・腫瘍生物学部門)

2017.12.28

造血幹細胞が多彩な血液細胞に分化
その仕組みへの興味が今も湧いてくる

 私は高校3年の生物の授業で、血液細胞の存在を知りました。造血幹細胞という一つの細胞から、形も機能も違う多彩な血液細胞に分化していくこと、健康な人ならそれぞれ一定の量の血液細胞が作られるのに、病気の人ではそれが増え過ぎたり減り過ぎたりすることなど、人間の体の中で一体何が起きているのかについて、強い興味を覚えました。それと同時に、将来研究者になって、血液細胞の産生を制御しているメカニズムを研究したいと思いました。それ以来、私はずっと血液のことを知りたいと思ってきました。米国に留学した今も、それは変わりません。

シンシナティ小児病院医療センター実験血液学・腫瘍生物学部門の横田明日美氏
シンシナティ小児病院医療センター実験血液学・腫瘍生物学部門の横田明日美氏

 高校を卒業し、2000年4月に、大阪大学医学部保健学科に入学、検査技術科学を専攻しました。血液の形態や疾患のみでなく、幅広い医学の知識を学べると考えたからです。

 4年生になって、杉山治夫先生の教室で卒業研究をしました。細胞培養やウェスタンブロッティング、PCRなど、研究を行う上で基礎となる手技を学びました。研究することの面白さを覚えたのもこの頃です。また、研究室のミーティングでは、大学院生の先輩方のプレゼンテーションを聞いて、さまざまな実験手法や、研究結果の考察の仕方などを勉強しました。

 卒業後も大学院で研究を続けたいと思い、入学した京都大学大学院の輸血細胞治療部の研究室では、前川平先生、木村晋也先生(現・佐賀大学血液・呼吸器・腫瘍内科教授)、芦原英司先生(現・京都府立薬科大学病態生理学教授)にご指導いただきました。2004年4月から2009年9月までの修士課程、博士課程の5年半の間、主にCMLに対する新規キナーゼ阻害剤の開発と、その新規薬剤の治療効果評価について、白血病マウスモデルを用いて治療実験などを行いました。

 教室には血液内科だけでなく、呼吸器外科、泌尿器科など、病院で患者さんの診療を行いながら「もっといい治療をしたい」というモチベーションを持った先生方が集まっていました。さまざまな悪性腫瘍に対する新しい治療戦略を見出したいという熱気があり、私自身、CML以外に幅広い研究に接することができました。同時期に教室に在籍していた方々とは、今も交流が続いていて、私にとって大切な繋がりを得ることができました。

Carew Towerからの眺望
Carew Towerからの眺望

貴重な経験を積んだ教員時代
CML幹細胞の研究で大きな成果

 2009年10月から、京都府立医科大学分子生化学教室に助教として着任しました。私自身、分子生物学の手法を用いた血液の基礎研究を行いたいという気持ちが強かったので、研究室の前川先生が、分子生化学教室の奥田司先生にご紹介してくださり、就職することができました。

 奥田先生は、白血病関連転写因子であるAML1/RUNX1が正常造血発生に必須であることをノックアウトマウスを用いて初めて報告された実績を持ち、私もRunx1関連の研究に取り組むことになりました。2012年9月までの3年間で、正常造血に必須の転写因子であるRunx1のリン酸化翻訳後修飾における機能と制御機構の解明を行いました。研究内容としては、Runx1分子内に存在する、リン酸化を受けるセリン/スレオニン残基を、アラニンまたはアスパラギン酸に置換することで、脱リン酸化またはリン酸化模倣Runx1変異体を作製し、これらの変異体について、ES細胞から血液細胞への分化を誘導する活性を、野生型Runx1と比較検討するものでした。この研究テーマを通して、分子生物学の基礎の手技を学ぶことができました。

 府立医大では助教という教職に就いたことも幸運でした。研究とは違うさまざまな体験を積むことができたからです。医学科、看護学科では、生化学の講義や実習を担当しました。学生さんには少しでも面白く聞いてもらいたい、でも間違いはないようにと思い、準備にはかなりの手間ひまをかけました。ほかに、看護学の専門学校の講師も務めました。大学と違い、学生さんの背景はさまざまなので、誰が聞いても分かりやすい内容にしようと、いろいろな工夫を凝らしました。こうした経験は、自分がどんな研究をしようとしているのか、目的は何か、分かったことは何かなどを整理し、人に伝えるときには、どうやったら興味を持ってもらえるか、などを考える際に大いに役立っています。

 そして、2012年10月に京都大学医学部附属病院輸血細胞治療部のポスドクとして着任し、大学院時代からの研究テーマであるCMLについての研究を進め、先に述べたような研究成果を報告することができました。

 この間に、大学以外の研究者との交流も深まり、いろいろな方から「ぜひ、海外に行った方がいい」「日本と違う研究環境に身を置けば、交流は大きく広がる」といったアドバイスをいただきました。私自身も、国際的に通用する研究者になるための第一歩として、まず英語でディスカッションできるようになりたいと思っていたところでした。

 当時の直属の指導教官であった平位秀世先生に相談したところ、平位先生の米国留学時代の友人で、シンシナティにラボを持つGang Huang先生がいるので、紹介しようと快諾していただきました。そしてGang Huang先生もちょうどポスドクを探していたということで、留学先が決まりました。

Great American Ball Parkでのシンシナティ・レッズの試合風景
Great American Ball Parkでのシンシナティ・レッズの試合風景

米国の研究室は複数のラボが同居
日々の交流と情報交換が刺激に

 2017年2月にシンシナティ小児病院医療センターの実験血液学・腫瘍生物学部門のResearch Fellowに着任し、現在は、MDS発症・進展における細胞内代謝経路の役割と、赤血球造血と赤血球増多症における単球・マクロファージの役割の二つを研究テーマとしています。MDSでは、造血幹細胞が正常に分化できず、異常な血液細胞が産生されます。これら異常な血液細胞は正常に機能できず、細胞の寿命も短くなってしまいます。根治療法としては骨髄移植のみですが、高齢の患者さんが多いので、適応は限られてしまいます。今のプロジェクトでは、MDS細胞において解糖系やクエン酸回路などの代謝経路に認められる変化が、どのようにMDSの発症や進展に関与しているかを解明し、これら代謝経路の変化を新しい治療標的とすることを目標としています。また、赤血球造血のプロジェクトにおいては、赤芽球の増殖、成熟赤血球への最終分化において重要な役割を担うマクロファージについて、その起源や機能、遺伝子発現プロファイルを解明しようとしています。マクロファージをマウスにおいて欠失させると、赤血球増多症の表現型が減弱することから、疾患への関与も示唆されています。どちらのテーマも、私の研究の最初の出発点である、「血液細胞が産生されるしくみを知りたい」という興味を持ちながら、血液疾患の発症や病態形成メカニズムを解明して新規の治療標的を同定することを目指し、基礎研究者の立場から臨床へ何か貢献できるような研究を行うことができればと思っています。

 研究室はオープンラボで、分野の違う複数のラボが同居しています。日本の研究室との違いに最初はストレスを感じましたが、今は、ほかのラボのボスやメンバーからアドバイスをもらったり、手技を習ったり、実験用マウスを融通してもらったりと、彼らとの日々のコミュニケーションが刺激になっています。

 シンシナティは、ダウンタウンこそ高層ビルが建ち並ぶ都会ですが、車で少し走ると緑の多い街並みになります。私は研究室までハイウェイで20分ほどのところに住んでおり、鹿、リス、ウサギなどと毎日のように出合う自然がいっぱいの環境です。日本人の研究者も多く、アジア系の食品を売るスーパー、大きなショッピングモールなどもあり、暮らしやすいところです。渡米と生活のセットアップにあたっては、日本人研究者コミュニティの先生方に助けていただき、心から感謝しています。

 今はラボで、研究の大枠を決め、それをメンバーと一緒に進めていくことが求められています。ボスのGang Huang先生には「独立した研究者になるには、もっとトレーニングが必要」と言われています。留学は3年の予定で、その間に一人前の研究者になれるよう、多くの人との交流を通じて成長していきたいと思っています。

Devou Parkからのダウンタウンとオハイオ川
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