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この人に聞くThe Experts

悪性リンパ腫を軸に39年の診療と研究
「チャンスで最大限の努力」を積み重ねる(後編)

飛内賢正(介護老人保健施設 リハビリケア船橋 施設長、国立がん研究センター中央病院 客員研究員)

2019.03.14

飛内賢正(介護老人保健施設 リハビリケア船橋 施設長、国立がん研究センター中央病院 客員研究員)

飛内賢正氏

1976年東北大学医学部卒業。同年4月より福島県いわき市立総合磐城共立病院内科で4年間の研修・勤務。80年国立がんセンター病院内科レジデント。83年磐城共立病院内科医長。86年国立がんセンター中央病院臨床検査部へ。造血器科医長、第一領域外来部部長を経て2010年国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科・造血幹細胞移植科科長/副院長。組織改編に伴い12年より血液腫瘍科科長。17年4月より現職。国内外の血液・腫瘍関連の多くの学会に貢献するとともに、NEJM、Lancet、Lancet Oncology、JCO、Blood、Haematologicaなど数多くの医学雑誌の論文審査にも長年携わっている。

 94年には、米国のスタンフォード大学とネブラスカ大学に計3カ月の短期留学をする機会を得ました。その留学期間中に、私が日本で行なってきたリンパ腫についての研究成果を、それぞれの大学で1時間程度で、2つのテーマについて講演することを提案し、承諾していただきました。米国の一流大学で大勢の著名な専門家の前で発表することにプレッシャーで尻込みしそうになりましたが、自分の研究成果を海外の一流の研究者の前で発表する機会は今後はないかもしれないからチャレンジしよう、と思い直しました。レベルのあまり高くない自分の研究内容でしたが、研究目的と研究方法を明確化し、どんな成果が得られたのかを整理して発表しました。

 そこで出会ったネブラスカ大学のジェームズ・アーミテージ教授をはじめ、多くの研究者から、その後、米国の医学教科書への「ATL」のチャプターの執筆依頼、ルガノ国際悪性リンパ腫会議のボードメンバーや専門雑誌の編集委員への就任などのご推挙をいただきました。どれも初めてのことばかりで、その度に苦労しましたが、逃げずに努力しました。

 92年の3週間の研修に向けて努力した結果が、おそらく94年の3カ月の短期留学に結び付き、それらの研修と講演に向けた努力が、海外での活動の場を作り広げる端緒になったと思います。チャンスが来たら、逃げず逃さず、最大限の努力をする。努力は評価として報われ、次のチャンスが与えられるのです。短い期間の国外での研修と留学でしたが、その後の私の臨床腫瘍医としてのキャリアに大きな影響を与えました。

国内外との共同研究が意義のある結果を生む
否定的データであっても発表する科学的誠実が大切

 2006年に米国・ワシントンで開催されたT-Cell Lymphoma Forumでは、わが国で行なわれているT細胞リンパ腫の研究で、最も耳目を集めそうな内容をプレゼンしたところ、学会のボードメンバーから「次回はCo-Chairpersonをやらないか」と声を掛けられました。以来、2017年まで毎年開催されたT-Cell Lymphoma Forum のCo-Chairpersonを続けました。会議全体の構成を考え、成果を上げている世界中の多くの研究者の中から演者を選ぶのは、膨大な作業量を伴う骨の折れる仕事ですが、最大限の努力をしました。そして分かったのは、研究者にとって重要なのは、自分のやっている研究成果をとにかく世界に発信すること、そして人が耳を傾けてくれる、信頼しうる成果を地道に積み上げていくことでした。そのために必要なのが、共同研究です。

Co-Chairpersonを務めたT-Cell Lymphoma Forum (TCLF) のボードメンバーのFoss 氏(中央)、O'Connor氏(左)と(2016年 第9回TCLFにて)
Co-Chairpersonを務めたT-Cell Lymphoma Forum (TCLF) のボードメンバーのFoss 氏(中央)、O'Connor氏(左)と(2016年 第9回TCLFにて)

 私がこれまで公表した論文をPubMedで検索すると、約410の英文論文がリストアップされます。その4分の3が悪性リンパ腫に関係するものです。実は、発表した英文論文の中で、私が筆頭著者を務めたのは一部に過ぎず、大半は共著論文です。つまり、自分の施設の研究だけではなく、他の施設との共同研究、さらには海外との共同研究を実施することが、一定レベル以上の成果を得るために必要になっているのです。

 血液内科医になってからの39年間で、リンパ腫の治療も病態解明も大きく変遷してきました。それらに関わることができたのは幸運だったと思います。その過程でいろいろなことを学びました。特に臨床医としては、基礎研究者との共同研究が重要であることを身をもって知りました。例えばATLの研究では、ウイルス学の研究者との共同研究が、さらには分子生物学の研究者との共同研究が必須です。血液内科以外の研究者との交流が大切です。

 それを実現するには、医師・研究者として信頼を得ることが求められます。「あの人は信用できる」という評価です。私は、それは科学的誠実(scientific honesty)によって得られると考えています。仮説と異なるデータ、否定的なデータ、自分たちの研究を進めるのに都合の悪いデータも全てを正直に発表するということです。私は、研究者としてそれを心がけ、結果的に国内外の多くの研究者との信頼関係を構築できたと自負しています。その相互の信頼関係は、共感する研究者との共同研究につながり、新たな成果へとつながるはずです。

診療でも研究でも患者の利益が最優先
チャンスから逃げなければ次のチャンスが

 私が血液内科医として重視してきたのは「患者さんの利益」です。臨床医として最優先するのは当然ですが、治療研究、研究計画、そして論文審査など、診療以外で私が担当した仕事をするときでも、いつも肝に銘じてきました。

 例えば日常診療では、診療科の中で担当医をグループ分けし、各グループが受け持ちの患者さんの治療方針を決める、というのが忙しい血液内科では多いと思います。しかし、患者さんの利益を最優先するためには、その治療選択について、診療科全員のカンファレンスで第三者評価をすることが大切です。その際には、役職やキャリアにこだわらない「建設的批判」が必要です。私は、国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科の責任者として、診療科内でのカンファレンスでの議論を活発に、かつ適正に進めてきたつもりです。

 血液腫瘍の診療も研究も、今後はその進歩のスピードに拍車がかかると思います。血液内科医は、それらを常にキャッチアップすることが求められます。決して楽ではありませんが、研究成果が臨床現場に生きるのもまた、血液内科医のやりがいの一つです。かつては助からなかった人たちの一定の割合が、今は助けられるようになりました。今は助からない人でも、将来は助かる可能性があるのです。

 私は若い先生方には「やりたいことがあったら、多少の障壁はあっても突き進んでほしい」とアドバイスしています。周囲の目を気にしすぎて、自分の意見を主張しない若手が多いように感じるからです。サイエンスをベースに診療を進化させることが大事です。さらに、研究にも取り組み、成果を積み重ね、英語の論文として発信してください。それが自分自身はもちろん、日本の血液腫瘍の診療・研究の優れた成果を世界にアピールすることにつながるのです。

 私は現在、介護老人保健施設の施設長を務めています。入所者の方にはいつも笑顔で接するよう心がけています。でも、考え事をしながら廊下を歩いているとき表情は違うようで、ときどき「先生、怖い顔してる」と言われます。まだまだ努力すべきことがあるんだなと実感しています。

退職を前に、国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科のスタッフらと(前列左から2人目が飛内氏)
退職を前に、国立がん研究センター中央病院血液腫瘍科のスタッフらと(前列左から2人目が飛内氏)