血液専門医と医療関係者のための情報サイト「ヘマトパセオ」

この人に聞くThe Experts

先入観にとらわれることなく患者を深く診る
臨床での気づきから病態解明へ(前編)

中尾眞二(金沢大学 医薬保健研究域医学系 血液・呼吸器内科 教授)

2017.11.30

血液疾患の臨床や研究に長年取り組み、数々の功績を上げてきたエキスパートを紹介する「この人に聞く」。シリーズ第1回は、金沢大学血液・呼吸器内科教授の中尾眞二氏にご登場いただいた。中尾氏は第79回日本血液学会学術集会で第6回日本血液学会賞を受賞。ライフワークである造血不全の診療と研究に取り組んだきっかけ、自己免疫性造血不全の概念を世界に向けて発信し続ける意義などについて、話をうかがった。

中尾眞二氏(金沢大学 医薬保健研究域医学系 血液・呼吸器内科 教授)

中尾眞二氏

1980年金沢大学医学部卒業。84年金沢大学大学院医学研究科修了後、恵寿総合病院、国立療養所金沢若松病院に勤務。87年5月米国国立保健衛生研究所(NIH)留学。92年7月金沢大学医学部第三内科講師。99年8月同大第三内科教授。2001年組織改編により金沢大学大学院医学系研究科細胞移植学(16年より血液・呼吸器内科)教授。04年金沢大学医学部附属病院検査部部長併任。06年同院副院長併任。10年同大がん医科学専攻長併任。16年同大医薬保健研究域医学系副系長併任。

 私は1980年に金沢大学医学部を卒業後、同大第三内科に入局し、以来、造血幹細胞移植による難治性血液疾患の治療と造血不全の病態研究をライフワークとしてきました。特に造血不全については、病態を誤解している医師や研究者が世界的に少なくないことから、正しい理解が必要であることを訴え続けてきました。例えば、本来は免疫抑制薬で治癒が期待できる軽症・中等症の再生不良性貧血(AA)の患者さんが「経過観察」となったり、骨髄異形成症候群(MDS)と診断されたりする結果、血球減少が進んで治療になった頃には造血不全が難治性になっているケースがしばしばみられます。このため、血球減少の程度が軽いうちにシクロスポリンを短期間投与し、効果があるかどうかを確かめることを勧めてきました。幸いわが国では、2017年8月に、軽症・中等症のAAに対するシクロスポリン療法が保険適用となったため、今後はさらにこの点を強調していきたいと思っています。

移植で奇跡的に治る患者を見て
難治性血液疾患の治療に取り組む

 学生時代からがんの治療に携わりたいと考えていましたが、血液疾患に特別な興味があったわけではありません。ちょうどその頃(1978年)、わが国で初めて、金沢大学第三内科が急性リンパ性白血病に対する同種骨髄移植に成功したこともあり、骨髄移植(造血幹細胞移植)でがんを治すことに魅力を感じ始めました。移植による治療は一種の免疫療法であり、がん免疫にもともと興味があったことから、日本の“骨髄移植の父”と呼ばれる服部絢一先生が教授を務める第三内科に入局しました。

 がんは、がん細胞を免疫が見逃してしまっている状態といえます。がん細胞に対して免疫が寛容状態になると、その免疫をいくら活性化してもがんを治すことは困難です。一方、造血幹細胞移植では、健康な人の骨髄を免疫担当細胞と共に移植するため、がん細胞への免疫寛容状態を一度リセットすることができます。これによって、化学療法では治せないと思われていた血液がんの一部を治すことができます。同種造血幹細胞移植を受けた何人もの患者さんが奇跡的に回復する姿を目の当たりにして、臨床的にも研究の対象としても、魅力ある分野だと感じました。

 卒業と同時に大学院に進学し、臨床研修後「免疫反応が造血に及ぼす影響」をテーマに研究を始めました。これは、師匠の原田実根先生から提案されたものです。既に1970年代には、AAは、リンパ球が造血幹細胞を攻撃することによって発症する一種の自己免疫疾患であることが推測されていました。

 私は臨床家を目指していたので、研究も、臨床に近いことをやりたいという思いがありました。AAにおける造血幹細胞の免疫学的傷害メカニズムを解明できれば、その成果をAAの治療だけでなく、同種造血幹細胞移植後の抗白血病免疫にも応用することができると考えました。同種免疫反応と造血不全の関係を検討し、84年に博士号を取得しました。その後、30数年間にわたり、同種造血幹細胞移植後の免疫反応や、AAをはじめとする造血不全の研究に取り組むことになります。

 金沢大学病院の血液内科は、当時造血幹細胞移植チームと化学療法チームに分かれていました。重症AAに対する唯一の治療は骨髄移植であったため、AA患者さんは移植チームが診ており、移植チームにいて造血幹細胞のアッセイを担当していた私は、自然に多くのAA症例を診るようになりました。幸運だったのは、金沢大学では造血幹細胞移植後のGVHD予防にシクロスポリンを早くから導入していたため、AAの治療にシクロスポリンを使用しやすいという素地があったことです。

次回に続く