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この論文に注目!Focus On

2025年9月の注目論文

市川聡(東北医科薬科大学 内科学第三(血液・リウマチ科) 准教授)
張替秀郎(東北大学大学院 医学系研究科 血液内科学分野 教授)

血液専門医である「Hematopaseo」のアドバイザリーボードメンバーが、血液領域の最新論文から注目すべきものをピックアップ。2025年9月分は、市川聡氏と張替秀郎氏が担当します。

Remission Assessment by Circulating Tumor DNA in Large B-cell Lymphoma

J Clin Oncol. 2025 Aug 13:101200JCO2501534. doi: 10.1200/JCO-25-01534. Online ahead of print.

Roschewski M, Kurtz DM, Westin JR, Lynch RC, Gopal AK, Alig SK, Sworder BJ, Cherng HJ, Kuffer C, Blair D, Brown K, Goldstein JS, Schultz A, Close S, Chabon JJ, Diehn M, Wilson WH, Alizadeh AA.

ここに注目!

超高感度ctDNA:LBCLにおけるMRD評価と予後予測の新基準

現在、大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)の治療効果判定はPETに依拠するが、治療終了時(EOT)にPETで完全代謝奏効と判定されても約2割が再発し、特異性にも限界がある。再発難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の予後不良性と治療の負担(合併症のリスク、社会経済的コスト)を考慮すれば、より精密な反応評価が求められる。循環腫瘍DNA(ctDNA)による微小残存病変(MRD)評価は以前から検討されてきたが、低腫瘍量での検出感度に課題があった。筆者らはMRD評価手段として、位相変異を標的として超高感度でctDNAを検出しうるPhasED-Seqを採用し、LBCL一次治療後の治療効果判定の改善の可能性を検証した。

アントラサイクリン併用療法を受けたLBCL患者を対象とする5つの前向き試験を統合し、137例(DLBCL 81%、高悪性度B細胞リンパ腫14%、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫 5%)を解析した。ベースラインで腫瘍または血漿由来の変異と生殖細胞系DNAから腫瘍特異的位相変異を同定し、治療中・EOTの血漿セルフリーDNA(cfDNA)で追跡した。検出閾値は0.7ppm(偽陽性率<1%)。ctDNA陰性(=MRD陰性)はC1後25%、C2後55%、EOTで78%に到達した。EOT時の2年PFSはctDNA陰性97%に対し陽性29%(HR 28.7、p<0.0001)で、強い予後予測能を示した。従来法(検出限界10-4)に比べ、進行/死亡例における検出率は40%から76%に、2年PFS予測感度は86%に、陰性予測値は97%に改善した。PETとの比較では、PET陰性でもctDNA陽性例の2年PFSは31%と不良で、ctDNA陰性例(98%)と明確に乖離した。逆に、PET陽性でもctDNA陰性例の2年PFSは93%と良好であった。多変量解析ではEOT-ctDNAのみが独立した予後因子で、EOT-PETは有意でなかった。なお、EOT-ctDNA陽性28例のうち9例は追跡中に再発せず、高濃度ctDNA例における照射介入や後続検体での陰性化が観察された。

以上より、LBCLに対する一次治療後の超高感度ctDNA測定によるMRD評価は、画像中心の反応判定基準より優れた予後層別化につながることが示された。将来的には、ctDNA陰性を根拠とした治療縮小、陽性例に対する早期強化療法・地固め療法や臨床試験への橋渡しなど、反応適応型の個別化治療戦略を後押しする中核的バイオマーカーとなることが期待される。