国立大初の「血液・腫瘍内科学」教授を22年
新生・血液学会の理事長として礎を築く(後編)
金倉譲(一般財団法人住友病院 顧問)
2019.05.23
金倉譲(一般財団法人住友病院 顧問)
1979年大阪大学医学部卒業。同年4月より同大学大学院内科専攻へ。83年より大阪府立成人病センター第5内科勤務。85年大阪大学医学部癌研腫瘍代謝助手。88年7月より米国・ハーバード大学ダナ・ファーバー癌研究所 research associate。90年7月大阪大学第二内科助手。97年同大医学部血液・腫瘍内科教授に。2019年3月退職、4月より現職。2008年に日本血液学会と日本臨床血液学会が統合され、2009年新・日本血液学会の理事長に就任。
2学会統合後の血液学会理事長に就任
「学術・診療・研究」それぞれに多くの委員会
学外の仕事で大きかったのは、2008年に日本血液学会と日本臨床血液学会が統合され、その後、新生・日本血液学会の理事長に就任したことです。多くの学会員は「え?金倉が理事長?一体、どうなるのか・・・」と思ったことでしょう。私は、「学術・診療・研究」の3分野が学会の重要な活動であり、それを実現するための3つの目標を掲げました。優秀な人材の確保と教育、国際化、公開性です。
一つ目の人材ですが、新しい血液学会では臨床血液学、基礎血液学いずれの振興も重要であり、そのためには有能かつ優秀な人材が必要です。そういう人をリクルートし、ヘマトロジストとしてきちんと教育することが大切だと訴えました。
国際化については、ASHやEHAに対抗できるほどではなくても、対等の立場で話ができるレベルの国際性を導入できればと考えました。アジア地域で日本が果たすべき役割もあると思っていました。日本という島国の中ではなく、もう少し広い世界に伍していける血液学会を目指していこうということです。
3番目の公開性は、誰にでもオープンな学会ということです。会員はもちろん、製薬企業や患者さんにも風通しの良いオープンな学会とし、様々な立場から自由に意見が言えるような学会を目指しました。
副理事長は、小澤敬也先生、須田年生先生という先輩方で、3人でこれらの課題に取り組みました。国際化については、小澤先生を中心にASH、EHAとの共同シンポジウム、アジアンセッションなどの形で実現していきました。須田先生には、基礎研究の充実をお願いしました。この私はといえば、最初にした仕事は、学会のロゴマークの制作でした。血液細胞を3つ重ねたデザインで、我ながら分かりやすいマークだと思っています。
私が特に心を砕いたのは、風通しの良さです。学術・診療・研究それぞれの領域に様々な委員会を設置しました。理事長の一声で学会の方向が決まるのではなく、委員会で活発に意見交換をし、その頑張りが結果に結び付く、という仕組みにしたのです。
委員会は、私の後任の赤司浩一先生がさらに充実を図り、現在では総務委員会、プログラム企画委員会、広報委員会、教育委員会、学術・統計調査委員会など20を超える委員会が活動しています。どの委員会のメンバーもその重要性を認識しており、メンバーの叡知が集まることで創造性のある企画・提言が継続的に出ています。自分たちが学会の方向性を決めるという責務を担っているとの自覚があるからだと思います。
学会を取り巻く関係者との対話を深めることも公開性では重要です。患者さんやご家族、製薬企業などからの意見を反映できる、開かれた学会を目指すという学会の姿勢は、現在も変わっていません。
Physician scientistの減少に危機感
血液学の面白さを伝え続けたい
血液学が発展し、その恩恵を少しでも多くの患者さんが享受できるようにするための土台は、人材の確保と育成です。大阪大学の教授のときも、血液学会理事長のときにもそれを目標として掲げ、努力してきました。しかし、血液学を志望する医学生、医師は、近年減ってきていると感じています。血液学を学び、実践している医師は「面白い」と言いますが、多くの医学生・医師は「食わず嫌い」なのか、その面白さを知らないまま、他の領域に進んでいるような気がします。
血液学会では、全国の各地区に地方会を作りました。それぞれの地区で若い人を活性化して、裾野を開拓していくことが狙いです。例えば、近畿血液学地方会は、研修医が中心になって発表する機会にしています。担当した患者さんの症例報告をすることで達成感を得られるようにし、さらにその発表内容を評価し、スコアの高い発表者を表彰しています。研修医に「血液学は面白いよ」と言っても、伝わらないでしょう。医学部での講義や初期研修の際に血液学に興味を持たせるようなプログラムが必要だと考えています。
もう一つ、血液学の志望者が減る理由と考えられるのが、専門医制度です。かつては、学生時代から幅広い領域の知識を学び、医師免許を取得してからは、すべての診療科目を経験した上で専門医になるという道筋がありました。当然ながら、個々人の能力や努力によって、優秀な専門医になれるかどうか差がつきました。
しかし、新しい専門医制度は、専門研修プログラムを学会独自に作成できるため、専門医取得の難易度に差が生じており、比較的容易に専門医を取得できる領域に専攻医が流れてしまう可能性があります。能力のある人も、それに流されて能力を十分に伸ばせないのではないか、さらには血液内科専門医を目指す若手医師が減るのではないかと危惧しています。
血液学は、基礎と臨床が近い領域です。良い臨床医になるということは、良い研究者になるということであり、それがphysician scientistであり、血液学では重要な人材です。しかし、最近はphysician scientistが減っているとも感じています。
これからは大学を離れ市中病院の勤務となりますが、病院の運営に加え、西日本の血液領域の研究グループに加わり、研究を通して若手の育成、血液学の発展に引き続き寄与していきたいと考えています。